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2012年8月22日 (水)

【Book】小林峻一『ソニーを創った男・井深大』・・・愉快なる理想工場への道

最近、有名人の自伝や評伝を読むのが面白くて仕方ありません。

子どものころの私は、いわゆる「伝記」というのが苦手でした。どうも退屈で(苦笑)

これは、人生経験があまり無かったから、書かれている内容をリアルなものと受け取ることが難しかったからかもしれません。

でも、ある程度の歳になった今では、「自分とはこんなに違う(または意外と似ている)人生というのがあるんだ」ということがまざまざと感じられる伝記や評伝が、下手な小説よりずっと面白く感じるようになりました。

それに一人の人物をクローズアップすることで、当時の時代というものが、事実を羅列しただけの歴史書では得られないようにリアルな肌触りを持って伝わってくる。これも楽しみの1つです。

さて、今回読んだのは、かの有名なソニー創業者・井深大の評伝です。約10年前に出版された本を増補改訂したものです。



『ソニーを創った男 井深大』
著者: 小林峻一
出版: WAC出版



井深大の評伝はそれこそ星の数ほど出ていると思いますが、私はこの本が初めてです。

この本は客観的な事実を書くということにかなり注意を傾けていて、さまざまな資料や既に世に出ている書籍を詳細に調べ上げて書かれています。

井深氏やソニーを熱くヨイショするでもなく、感傷や興奮にひたるでもなく、淡々と丹念に井深大の生涯をたどっています。

本書の3分の2は、ソニーの前身である東洋通信工業株式会社の設立より前、太平洋戦争終結以前の話になっています。

ソニー自体の発展物語というより、井深大という人間そのものにスポットライトをあてています。

だから、ソニー自体の経営物語を詳しく知りたい人は、他の本をあたったほうがいいでしょう。


ワタクシ、井深大については本当にまったく何も知らなかったんですが、彼は明治(1908年)の生まれなんですね。もう少し最近の人だと思っていました。

この時代の話を読むといつも思うんですが、ようやく過程に電灯がともり、ラジオというものがはじめて世の中に登場し、さらに自動車、冷蔵庫、テレビが出てきて・・・と、科学技術がどんどん進歩することが誰にでも素朴に確信でき、実感できて、本当にワクワクする時代だったんだろうなと思います。

いつの時代でも技術的なワクワクは身の回りにあると思いますが、便利なモノがあふれている今の時代には、やっぱりそれを見つけることがかなり難しくなっていると思います。

しかも、あらゆるものが高度化してブラックボックス化し過ぎていて、自分の手で新しいモノを作り出せそうという実感を持ちにくいですし。

その意味で、いち技術者として、この20世紀前半という時代はとてもうらやましいなと思わずにいられません。


この本で思ったのは、あたり前のことですが、人の縁というのは人生の中でものすごく大事だな、ということ。

井深氏は、人生の要所要所で、生涯の師、あるいはサポーターというべき人物に恵まれます。

早稲田大学教授の「電気の神様」・山本忠興、公私両面にわたり生涯深い関係を持った野村胡堂や前田多聞、そしてソニーの共同経営者になる運命のパートナー・盛田昭夫。

井深氏はもともと割と裕福な家柄で、ラッキーな面も多々あったように感じましたが、ラッキーも含めて1つ1つの出会いが後の大成功につながっていきます。


もう1つ思ったのは、やっぱり好きなこと・得意なことにとことん全力投球すべきだな、ということ。

井深氏も盛田氏も、子どもの頃から理系科目は大好き・大得意だった。ラジオや録音機なども趣味で自作するほどもの作りが大好きだった。けれど国語などの文系科目は、危機的状況だったそうです(笑)

やっぱり何かでとんがった成功をおさめたいなら、満遍なく何でもできるのではなく、得意分野に思いっきり軸足を置く、そして他のことはバサッと切る、という判断が必要なんだろうなと思います。

私なんかは、つい興味が発散しがちな性格なので、何事につけ器用貧乏になりがちです。もういい歳ですし(苦笑)、人生における選択と集中ということを強く意識せんといかんなー、と改めて感じました。

これからの時代には、複数の専門分野を研ぎ澄ませ(1つだけだとその分野がつぶれたら終わりだから危険)、それ以外の部分は足手まといにならない程度におさえておく、というスタンスでスキルアップすべきだろうと思います。


それにしても、ソニーの前身である東洋通信工業の有名な設立趣意書は、技術屋としては何度読んでも胸がアツくなります。

「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」

「不当なる儲け主義を廃し、いたずらに規模の大を追わず」

「経営規模としてはむしろ小なるを望み、大経営企業なるがために進み得ざる分野に技術の進路と経営活動を期する」

「技術上の困難はむしろこれを歓迎、量の多少に関せず最も社会的に利用度の高い高級技術製品」

いま、エレクトロニクス分野でとても苦しい状境に立たされているソニーは、この高い理想に向けて再び復活を果たせるのでしょうか?




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